舞台「まさに世界の終わり」が本日千穐楽を迎えるので総まとめの感想を残そうと思います。
自分の観劇最後の日、友人と飲みながら3時間くらい色んな話をして、改めて自分の考えを掘り起こしたり、友人の解釈を聞いたりして、すごく楽しかった。
なるほどなって思うことがたくさんあって、感想を言い合う楽しみってこういうものなんだなぁと思った。
感想、いつもバラバラに書いてまとまらないから、場面ごとに書いてみる。
先に言っておくけどめちゃくちゃ長いし、舞台を観た人にしかよくわからないと思う。
見出しは場面がわかりやすいように勝手につけただけです。
前提として、ルイは性的マイノリティであり、作者ラガルスと同じエイズであると仮定しながら考えたものです。
- 1.プロローグ(ルイの出発)
- 2.家族とルイの再会
- 3.カトリーヌの子供の話
- 4.ルイとシュザンヌ(階段)
- 5.日曜日の話
- 6.「ほんの十日くらい前…」
- 7.ルイとカトリーヌ
- 8.ルイとシュザンヌ(祝砲)
- 9.ルイとお母さん
- 10.家族写真と喧嘩
- 11.ルイのショータイム
- 12.ルイとアントワーヌ
- 13.ルイの夢の中
- 14.出ていく前のルイの心情
- 15.車で送っていく話と兄妹の喧嘩
- 16.アントワーヌの気持ち
- 17.エピローグ(山奥の話とルイの後悔)
- 最後に
1.プロローグ(ルイの出発)
ベッドでうなされて飛び起き、何かを掴もうとするルイ。
力なく腕を落として、自嘲気味に笑ったり、寝汗をぬぐったりして、静かに話し始める。
7回観たのだけど、11/2の始まり方が妙にすごくて、本当に死に絶望している感じがした。
消え入りそうな声で、光のない目で、ぼんやりと「僕は死ぬことになっていた」とつぶやく姿が忘れられない。
内くんが言い始めたことで、ファンの間でも「ラガルスが来た」と形容される回があるのだけど、それだったのかもしれない。
2.家族とルイの再会
ルイが入ってきた瞬間、お母さんは喜びを抑えながらアントワーヌを気に掛ける。
アントワーヌは気まずそうに玄関から一番離れた椅子に座る。ちらちらとルイを気にしながら水を飲む。突然帰ってきた弟の様子をうかがっているみたいだった。
ルイが挨拶のキスをしないことについてシュザンヌが「いつもこうだった」というけど、シュザンヌが小さいときにルイは出て行って、あとの場面で「兄さんのこと何も覚えてないわ」というので、変だなと思っていた。(ここはあとの場面について教えてくれた友人の解釈がすごくしっくりきた)
3.カトリーヌの子供の話
初対面なのに、カトリーヌはルイに対して懸命に話題を提供しようとする。沈黙を作らないように。それがすごく「気を使っている嫁」という感じで、カトリーヌ大変だねぇと思いながら見ていた。
ここで、長女が8歳、息子が6歳という情報が出てくる。
長女が生まれたとき、ルイは花を贈って、カトリーヌは娘の写真を送ったという。つまり、アントワーヌがルイに出産を伝えて、ルイがそれに対して花を贈り、カトリーヌが写真を送った。アントワーヌはルイの住所を知っていたし、連絡を取り合っていた。
ここで子供の話をするカトリーヌに、アントワーヌは「弟がうんざりするじゃないか」という。アントワーヌ本人はなんでそんなことを言ったのかわからないと言うけど、久しぶりに帰ってきた弟が初対面である嫁の話をずっと聞かされていることに気を使ったのか。アントワーヌは乱暴な物言いをするけど、内心では弟のことを気にかけている。だから気を使ったのかな。(でもカトリーヌだって一生懸命話題をつなげようとしてたんだよ、カトリーヌお疲れ様だよ…)
一方、ルイはそれに対して「どうして兄さんはそんなこと言うのかな。わからないな。意地悪だし不愉快だよ。全然うんざりなんかしない。僕の甥っ子、姪っ子なんだから、興味あるよ」とアントワーヌの”罪を告発”する。
後半のシーンでアントワーヌに邪見に扱われていると考えたルイは兄を陥れるために善人ぶった発言を繰り返すんだけど、その手口はもうここから始まっていたんだと思う。
最初は騙された。なんでアントワーヌはルイに対してすぐいじわるなことを言うんだろうと。でもルイの手口に気付いてからは違った。わざとらしく左耳に髪を撫でつける仕草が、兄を悪者に仕立て上げるときのサインに見えた。(毎回そうってわけでもないみたいだったけど)
このとき、ルイは困ったように母を見る。きっと母も騙されている。アントワーヌに乱暴者のレッテルを張って、ルイを守らなきゃと思ってしまう。
次に、カトリーヌが息子(ルイ)の名づけの由来を語り始めるとき、アントワーヌが「フランス歴代の王様だよ」と冗談を挟む。それをたしなめられたあとに「こんな日に冗談も言えないなんて!」と言っていたことから、アントワーヌはルイの帰省を喜ばしいものだと思っていて、不愉快にさせてしまったからウケを狙って挽回しようと思ったのかな、と感じた。
でも、「由来を話さないように遮ったのかも」という感想ツイートを見て、そういう気持ちで観たら、確かにそうにも見えた。どっちだろう。気になる。
結局カトリーヌは息子ルイの名前の由来を話し始めて、「みなさんのお父さんの名前」「あなたにはお子さんがいらっしゃらないから」と言い、ルイを動揺させてしまう。とにかく沈黙を作らないようにしなきゃって、悪気はないように見えた。
何も知らずに見たときは、もうすぐ死ぬから子供を作れないという理由で動揺しているのかと思ったけど、髪を耳にかける女性っぽい仕草や、「普通と違う」という発言から、同性愛者・性的マイノリティなのではという意見を目にして、そう考えるのが一番腑に落ちた。
確かに、ルイが32歳で、アントワーヌの息子のルイが6歳。ルイが25,6歳の時点で「弟は子供を作らないだろう」と判断するのは早すぎる気がする。アントワーヌにそう思わせる理由があったはず。
このとき、鼓動の音が流れる中、ルイの顔がどんどんこわばって目が泳ぐ。
「アントワーヌのアイディアなんです」と言われて、ルイはアントワーヌを睨みつける。
アントワーヌが自分の秘密に気づいたのか、それともカトリーヌにばらしたのか、疑心暗鬼に苛まれるようにルイの視線がぎょろぎょろと泳ぐ。
そのあとルイが「跡継ぎの男の子」と言ってアントワーヌが「くそっ!」と怒るのは、それが嫌味だと気づいたということ。
原作だとルイが長男、アントワーヌが次男という設定なので、「次男のアントワーヌが勝手に兄は子供を作らないと判断して、父の名前を引き継いだ長男ルイの名前を自分の息子につけた」ということになる。ルイはそのことに対して嫌味を言ったんだなと思う。
4.ルイとシュザンヌ(階段)
シュザンヌの「兄さんのこと何も覚えてないけど」というセリフで始まる。
私はこの場面でシュザンヌが「兄さんってああでしょ!こうでしょ!」とまくしたてるのを聞きながら、シュザンヌはめっちゃ嬉しいんだな、かわいいなぁと思っていた。ルイも笑いながら聞いているので、そうなのかなと思っていた。
でも、時々ルイはすっごくうざそうな顔をする。その理由がずっとわからなかった。
友人に「あれは決めつけて話されるのが嫌なのかも」と教えてもらって、すごくすっきりした。
友人は「ポストカードをたばこ屋で買ったと言われたとき嫌そうだった。あとからアントワーヌのセリフで、ルイがたばこを吸わないことがわかる。シュザンヌはずっとイメージだけで決めつけて話してるから、ルイはそれが嫌なんだ。でも書くのを仕事にしてるって言われたときに笑うのは、それだけ当たってるから笑ったのかも」と教えてくれて、「なるほどな~~~~!!!!」と、もんのすごい腑に落ちた。
(友人のシュザンヌ考察、とてもわかりやすくて好き。URL掲載の許可をいただいた!)
11/7追記
昨日、島ゆいかさんのツイッターで、シュザンヌの脚にあった大きなアザがメイクであったことが明かされた。
え~~!ずっと本当にケガしたんだと思ってすごく心配してたら!まさかのメイク!ということは、アザにも意味があるのか……とまた考えを巡らせることになった。
シュザンヌは、大きなアザがあってもショートパンツを履いて脚を見せることを厭わない性格の子なんだと思うと、ルイとは正反対のタイプだなと思った。
ルイは自分の本音や性のこと、病気のことを秘めてばかりだけど、シュザンヌは隠し事をしない。おおっぴらな性格。そういうことなのかなと思った。
でも、夢の中のシーンでアントワーヌが言うセリフには、「おまえとルイは似てる」という言葉がある。「兄(ルイ)がいないことをシュザンヌは不幸だと思っているけど、それは自分が不幸だって思いたかっただけだ」と。
ルイとシュザンヌは正反対に見えるけど、不幸を武器にするルイと似ていると考えるなら、シュザンヌはアザをあえて見せることでルイに優しくしてほしい、気にかけてほしいという算段があったのかもしれない。
または、夢の中の言葉はルイの頭の中のものなので、実際はそうでないのにルイの受け止め方がひねくれていて、「シュザンヌはアザのことを心配してほしいのか?」と思っていたかもしれない。
5.日曜日の話
何度も聞かされたお母さんの話をニコニコ聞いてあげるカトリーヌは本当にいいお嫁さん…私はこの登場人物の中で、カトリーヌが一番好き。
ここでアントワーヌが席を立とうとすると、ルイがすかさず「どこ行くんだよ、さみしいよ」と声をかける。出たな善人~~!!!(内くんのことは大好きだけど、ルイのことはヤなやつだと思っている)
お母さんもそれに応じてアントワーヌのことを「ひねくれてる」と言う。アントワーヌ不憫。
ここでお母さんは「お父さんは赤が好きだった」って言う。
私は、きっとお母さんの思い込みなんじゃないかって思っていた。お母さんはネックレスもブレスレットも靴も赤。きっと赤が好きで、ここからたくさん家族のことを決めつけながら話す場面が出てくるから、お父さんも赤が好きって決めつけていたのかなと思った。
でも、感想ツイートを見ていたら「お父さんが好きだった赤を身に着けてるんだね」というのを見かけて、その考え方もあったか~!と思った。担当カラーに色の好みを支配されている私はすごく納得した。どうなんだろうなあ。
ここでルイがゲホゲホ咳込むと、お母さんが慌てたように「それから!ピクニック!」と新しい話題を繰り出す。ここで病気のこと察したのかな。でもお母さんめっちゃ決めつけて話すから鈍感な気もするけど…
アントワーヌはこのあとシャンパンを注ぎに回って、ルイだけ全然飲んでいないことに気付いて怪訝な表情をする。それから、ちらちらとルイの様子をうかがっているから、異変には気づいていると思う。
この場面で好きなのは、思い出のレストランの話をするところ。カエルと鯉のフライ、というキーワードでルイが愛想笑いを崩したように見えた。
「ああ~、あの店ねー!うんうん、好きじゃなかったな(笑)」と、アントワーヌと一緒に笑うところは、兄弟っぽさが出ていて好きだった。本当に、小さい頃は仲がよかったんだなと思った。
(ツイッターで友人と話していたら、アントワーヌ役の鍛治直人さんから「兄弟揃って鯉と蛙のフライが大嫌いなんです!」とリプライをいただいた!嬉しい!あってたんだ!)
6.「ほんの十日くらい前…」
家族の団らんがぴたっと止まって暗くなり、ルイがうんざりしたような顔でだらりと客席を振り返る。
「ほんの十日くらい前、僕はどこにいたんだっけ」
このギャップもすごく好きだった。
死に対する絶望が語られる。
「みんなが僕についてあるイメージを作り出して、いつかそのうち僕を好きでなくなる、好きでなくなってしまう」
友人に「ルイは決めつけられるときに嫌そうな顔をする」と聞いたことを思い返すと、そのときの気持ちが語られているのかなと思った。
勝手にイメージを作られて好き嫌いを判断されるということが、本当のルイを見てもらえず孤独の中に置き去りにされてしまう、見捨てられた、誰も理解しようとしてくれない、という気持ちにつながるのかな。
ルイの気持ち、全然わからないわ。だって何も言ってなくて笑ってるだけなのに、本当の自分なんて理解してもらえなくて当たり前だし、それなのにいじけてなんなんだ?と思う。言いたいことはなんとなくわかるけど、気持ちはほんとわからん…と思っていたんだけど、ここまで書いて、そういえばルイの病気はエイズなのかもしれないんだと思い出した。(自分の思ったことを置いておきたいのであえて消さないでおく)
私はエイズが誰でもなりうる病気で、感染の原因が性行為か血液感染か母子感染だと知っている。偏見がある病気だというけど、偏見を持つ前にこのことを本で読んだことがあったので、「偏見がある病気」という感覚がなかった。
だけど、エイズは1981年にアメリカの同性愛者の男性に初めて発見されて、そこから10年で世界中に広がったらしい。
この戯曲が作られたのは1990年。まさにその時期だ。
そのころは(今もなのかわからないけど)、同性愛者の病気とか、薬物濫用者の病気だと偏見があったそうで、そういう病気なら、ルイが家族になかなか言い出せないのは理解ができた。
「僕についてあるイメージを作り出して、いつかそのうち僕をもう好きでなくなる。好きでなくなってしまう」と苦悩するセリフの意味もわかる。
そして、エイズは感染の原因だけでなく、感染経路についても偏見があるという。
エイズは飛沫感染や接触感染はしない。だけど、そういった偏見をもし家族が持っていたとすれば、「うつるから近寄らないで」と言われる可能性だってある。
食卓のシーンで、ルイがグラスの水を飲んだあと、飲み口をぬぐっているというツイートも見かけた。自分では見られなかったのが残念だけど、もしかしたらルイ自身も感染経路について誤解があり、「唾液から家族に感染させてはいけない」と思っていたのかもしれない。
ルイがエイズで死ぬことを告げるとき、性的マイノリティであるとしたらそのことから話さなきゃいけない。ルイは2つのカミングアウトが必要だったわけで、最悪の場合、自分の心も体も否定される可能性を孕んでいた。
そりゃなかなか言えないわ……
この気持ちをもって、もう一度観劇できないのが惜しくて仕方がない。
そしてエイズのことを調べていて気付いたことがひとつ。
「エイズに対して偏見を持っていない」という意思表示のために、「レッドリボン運動」というのがあるらしい。
ルイのジャケットの裏地の赤や、お母さんの小物が赤いことと、何か関係があるんだろうか。
7.ルイとカトリーヌ
ルイが咳込んで慌てて薬を飲んでいるところに、カトリーヌが入ってくる。
ルイは気づかれないようにして、落ち着いてからカトリーヌに話しかける。
「どうしてアントワーヌがあんなこと言ったのか、僕にはわかりません」
あんなことっていうのは、子供の話について「弟がうんざりしている」と言ったこと?だいぶ場面挟んだけどここで蒸し返す?アントワーヌを悪者にするために。
「兄は、あなたが僕を嫌うように仕向けたのかも」と言いながら、またドヤ顔でわざとらしく左耳に髪をかける。
きっとここでルイはカトリーヌを味方につけたかった。母や妹のように自分を大切にしてほしかったのかな。
でもカトリーヌは騙されなかった。「そんなこと思ってもみませんでした」と。
ルイからすれば、なんだつまんねえなって感じだと思う。
そのあと、カトリーヌが「アントワーヌの役割(仕事)を知っていますか?」と聞いて、仕事内容を説明する間、徐々にルイに当たるスポットライトが白くなっていく。
ルイのライトが白いとき、ルイの心の中では何か変化(動揺や怒りやネガティブな気持ち)が起こっている印のようだ。
このシーンでは、カトリーヌがアントワーヌの味方をしたことがおもしろくなかったのかもしれない。
カトリーヌも「アントワーヌはあなたが自分に興味がないと思っている」と決めつけて話すけど、カトリーヌの解釈と実際のアントワーヌに大きなズレはないように感じた。だからルイは、アントワーヌが理解されて愛されていることを疎ましく妬ましく思ったのかな。ルイは自分を理解してくれる人がいなくて孤独だと思っているから。
で、カトリーヌが「彼に言うべきことを言ったほうがいいです」と話したあと、「アントワーヌがあなたを嫌うように仕向けたって?」と聞き返すとルイはバツが悪くなって「言うべきことも言うべきでないこともわかりません」と返す。
それに対してカトリーヌは「よかった、さっきよりずっといい」と言う。
これは、ルイがアントワーヌを悪者にしようとしたのを諦めたことに対してなのかな。
最後、カトリーヌが去ったあと、ルイは「ふう」と緊張が解けた様子を見せる。カトリーヌには自分の悪意を見抜かれているようで気を張っていたのかもしれない。
8.ルイとシュザンヌ(祝砲)
シュザンヌが出てきて、ルイにカトリーヌについて話す。
カトリーヌがどんな人物かを決めつけて話す口ぶりに対して、ルイは「いつもそんな感じなの?「自分の意見」を言うとき、いつもそんな感じなの?」と聞く。
すごーーく優しい聞き方だけど、舞台ではわかりにくいけど、翻訳本では「自分の意見」とカギかっこがついている。
自分の意見なだけで実際はどんな人かわかっていないだろうという嫌味なのだろうか。
ここの「祝砲!ダーン!」「(…)うう~」の流れが微笑ましくて好き。ここは妹をかわいがっている兄という感じがする。
でもそのあとシュザンヌが「こういうとき、アントワーヌはこういうの。黙ってろシュザンヌって」というと、ルイが「黙ってろシュザンヌ、か…」 と繰り返す。
このとき、「そっかあ」と優しそうなときもあれば、「本当にその通りだな」とウザそうなときもある。
これはそのときのルイの気分によるものみたい。その微妙な差の違いが楽しい。
9.ルイとお母さん
ルイがタイプライターで文字を打っている。ルイの仕事は書くことっていう暗示なのかな。
そしてお母さんが登場して長台詞。アントワーヌとシュザンヌに対する決めつけが炸裂する!(言い方)
その間、ルイは結構優しい顔をしているなと思っていた。
「作り笑顔」と言いながらお母さんはルイの顔に触れる。うちの母も実家に帰ると顔や手をぺたぺた触ってくるのだけど、そのときの気持ちを思い出して、ルイも嬉しいんじゃないかなと思った。大喜びするわけじゃないけど、ぽわっとする。
お母さんもルイの嫌いな「決めつけ」をするけど、ルイは困ったときはお母さんに助けを求めるし、お母さんがアントワーヌに悪印象を抱くように仕向けたりするから、ルイの中の好き度で言えば、お母さんが一番上な気がする。
だからポジティブに今後の話をするお母さんに、もうすぐ自分が死ぬことを言い出せなかったのかもしれない。
この場面の最後、「いくつになった?」と聞かれるとき、ルイは一度顔をそむける。
私はそれを「もうこれ以上生きられないよ、ごめんね」という悲しい気持ちを押し殺しているのだと思っていたけど、別の人の感想で「嫌そうな顔」というのを見た。
確かに、出て行った息子が心配なら年月をずっと数えているかもしれない。でも年齢を聞いてくるということは、お母さんはルイの年齢を知らなくて、ルイにとってはそれが無関心に映ったのかもしれない。
お母さんはこのシーンで「あんたがどこに住んでるのか知らないけど」とも言う。
でも、ルイから絵葉書は届くし、アントワーヌはルイと連絡を取り合ってるんだから、住所はわかるはず。
ルイの言う「僕を置き去りにした」「まるで僕がそう願っているから叶えてやったとでも言うように」という言葉に込められた憎しみは、お母さんに対するものが一番強いのかもしれない。
日曜日の話の場面で咳込んだのに全然触れられずに別の話題に移ったことも、ルイからすれば「母は自分の体調が悪くても無関心だ」と思ったかもしれない。
お母さんのことは好きだけど、お母さんが無関心(を装ってい)すぎて、「愛してくれていない」と思ってしまうのかも。
そう考えたら、「いくつになる?」って聞かれたルイは、やっぱり僕のことには興味ないんだなってがっかりしたんじゃないかな。
マシュマロで、お母さんの言う「それ(32年)って長いの?」とはどういうことだと思う?という質問をいただいた。
お母さんからすると子どもはいつまで経っても子どもの気分でいるけど、32歳っていったらもう大人だから、「あんたも大人になったのねえ」って気持ちなのかなと思っていました。
そのあと、暗転の前の一瞬でルイが笑顔を浮かべるのが、すごく儚くて好きだった……
11/7追記
千穐楽を迎えた日の夜、家でまた本を読んでいたら、不思議な感覚に襲われた。
「なんで私は、お母さんが子供たちのことを決めつけているとずっと思ってたんだ?」
お母さんが語るシュザンヌとアントワーヌのこと、ぴったり合っているじゃないか。
「シュザンヌはルイのことを何も知らなくて、想像ばかり。」
実際、ルイはたばこを吸わないのに、たばこ屋でポストカードを買ったと言って嫌な気持ちにさせていた。
「アントワーヌはルイのことを知っている。」
ルイの性のこともおそらく知っているか、そうでなくても勘付いている。だから息子にルイの名前を継がせた。
「あの子たちは時間が少なすぎることを恐れていて、不器用なやり方をするわよ。そして下手な物言いをしたり、早とちりをするでしょう。ぶっきらぼうになるかも」
確かに、シュザンヌもアントワーヌも、ルイが来たことを喜んでいる。シュザンヌは嬉しくて空白の時間を埋めるように思い込みばかりでマシンガントークを繰り広げる。アントワーヌは、帰ってきた弟を笑わせてやろうと冗談を言うけど、顰蹙をかってしまったり、シュザンヌが喜びすぎてルイにガンガン向かっていくので弟を気遣ってたしなめることで妹を怒らせて空気を悪くしてしまったりする。
どちらも確かに不器用だ。あってる。
シュザンヌが家を出たがってることも、アントワーヌが家族を支えることに負担を感じていることも知っている。
ルイの笑顔が作り笑いだってこともわかってる。
お母さんのセリフを読んでいると、「来たのは間違いだったって思ったんでしょ」とある。ここできっと私は誤解した。「ルイは覚悟を決めて帰ってきたのに!」と。
そのあと「シュザンヌに会いに来てもいいって言っておやりよ」なんて流れになってくるので、ルイの死を知っている私は余計に、「ルイの「これから」はもうないんだよ、お母さん何も知らないで…」と思ってしまっていた。だから誤解が生まれていたんだ。
でも、お母さんが言ってることは、9割くらいは当たってた。
その、「家族のことをわかってる」話の流れで「おまえ、いくつになった?」というセリフが放たれる。
ルイは家族の誕生日には18年間、欠かさずカードを送っていた。シュザンヌには省略文と揶揄されたけど、家族のことを完全に嫌っていたら、そんなことはしないはず。
でも、お母さんは自分の歳を知らなかった。
家族のことをこんなに知っていると話すのに、数えるだけで済む年齢は知らなかった。
それって、ルイにとってはすごく悲しいことだったんじゃないかな。
そう思うと、ルイが歳を答える前に顔をそむけて何かをこらえるような表情をしたのは、「僕が何歳かなんて母さんは気にしてなかったのか」という気持ちだったのでは。
きっとルイは家族の中でお母さんが一番好きだと思うんだけど、その人が一番自分のことを理解してくれてないとなると、そのぶん「わかってない」という怒りや憎しみも大きくなるんじゃないかと思った。
10.家族写真と喧嘩
家族写真を撮るとき、ルイの顔が怖い。シャッターを切る瞬間だけ笑顔になる。
シュザンヌの理想の家族像に使われるのが嫌だったのかな。
それとも、家族が集合した今回こそ死ぬことを言わなきゃって気持ちなのかな。
(死ぬことを言えないって前提で観てるから、いつ言うのか気にする気持ちを忘れがち)
そのあとシュザンヌがルイにカメラを向けて、一緒に写ろうとするアントワーヌに「どいて!」とジェスチャーをして、アントワーヌは「なんだよ」みたいな顔をしている。
ルイが来て浮かれていつもと違うシュザンヌに対するもやもやっとした気持ちがふくらむきっかけのひとつだったのかも。
このあと、シュザンヌとアントワーヌの喧嘩が始まって、部屋を出ていくシュザンヌ。
そしてコーヒーのおかわりをもらおうとするルイの口調をおちょくってカトリーヌにたしなめられ、アントワーヌも出ていく。
二人を追いかけも心配もせずに「みんな揃って幸せだわ」なんてのたまう母を見て、ルイとカトリーヌが「はあ?」みたいな顔をする。
お母さんはルイが出て行ったらルイのことは追いかける。
やはりルイを放っておけないという気持ちはあるみたい。
みんながいなくなったあと、カトリーヌが疲労困憊という表情を浮かべて顔を覆う。
自分の夫を悪者にしようとする義理の弟、いつもと違う義理の妹と、それに対していちいち乱暴になる夫、のんきに構えている義母……そりゃカトリーヌ疲れるわ、本当にお疲れ様です…私はカトリーヌの味方だよ…と思う。
11.ルイのショータイム
ショータイムじゃないけど。
ここはもう中身の考察とかなんもできなくて、「これが!好き!」みたいな話しかできません。
停止したリビングに、本性のルイが現れる。悪い顔して!好き!
指パッチンでピンクのスポットライトがついて、極悪な顔をしたルイが家族を操る。
「彼らのことを前もって見当をつけておく。仲直り!GO!」と両手でハートを描くのが好き~~~!!!(ずっと自担の悪役を観たいと願っていた私は、もうこのへんは好きが爆発してルイの気持ちなど考える余裕がない)
しゃがんで悪い顔して家族の成り行きを眺めているのも、家族の狼狽ぶりを見て高笑いしているのも、全部好き……悪すぎ……
自分が死ぬことで家族に悲しんでほしい、悲しんでくれたら嬉しいってことなのかな。
ノリノリの極悪ルイから一転、ピンクの照明が消えると脚を叩く音を合図に家族がはけていく。
そこからは暗くて黒い本音のセリフが続く。
「黙って見逃したことを僕は蒸し返す」というのは、「なんであのときこんなことを言ったのか、なんであのときこうしてくれなかったのか」と不満が再発して怒りを覚えるということ?
「憎しみを吐き出す」は、「なんで自分が死ななければいけないのか、なんで誰も心配してくれないのか」ってこと?(そりゃ言わないと知らんやろ)
「お前たちを一人また一人と殺していく」というのは実際の殺人じゃなくて、いまの自分を愛してくれないという憎しみを理由にして、「お前なんて好きじゃない」と過去の楽しかったり嬉しかったりした記憶を抹殺していくことかなぁと思った。
「ぐったりと青ざめた人に戻る」のところで脱いだジャケットを撫でまわしているの色気爆発してるし、「僕は自分を生贄にしよう」のところも邪悪で好きです!!(言葉の内容についての感想を生み出せなさすぎる)
もう、私はこういう内博貴の新しい一面を観られたのが、待ってました!という感覚です!!!
「出来損ないで並以下の僕」という言葉は、やっぱり性的マイノリティであることを暗示しているのかな。家族を操るシーンでお母さんがアーメンの動きをしていて、この一家はキリスト教みたいだから、同性愛をタブー視するキリスト教として、ルイは自分の恋愛志向をいけないことだと思っていたのかもしれない。
そして、「悪くない」の言い方よ!!!いつも「は~、やっば……」しか考えられない。
そのあと、ついさっきまで早口で悪そうに怒鳴っていたのに、「さらに何か月か前のこと」で一気に怒涛の流れが止まって笑顔に切り替わるところ、サイコな感じですごかった……
「死には決して追い付かれない」でカウンターのほうに逃げて、隠れて、そーっと上から出てくるところすごく好きだし、そのあと下に潜って下から出てくるのも好き!!
「ンン!」と咳払いをしてからの「僕は物好きでいたい。ひ弱さを装って青白く、気取った青年でいたい」のところも、そのあとの「僕はよそ者だ。自分の身を守る。郷に入れば郷に従え、だ!」と指を立てる仕草も好き。
死をポジティブにとらえようとして、やせ我慢しているのかな。
家族から関心を向けてもらえなかった(と思っている)から、悲劇の主人公になれて、今度こそ同情を集められると高揚しているのかな。
かわいそうぶって同情を集めるのはルイの手口で、その最高の材料が手に入ったということ?
待合室で死が近づいてきたときの芝居が、本当に見えない誰かがいるみたいですごかった。
「死と僕は」の仕草と「僕たちはエレガントで、カジュアルで、かなりミステリアス」のとこ、すんごい好き。(いろいろ考えようとしても好きポイントで思考止まる)
うまいこと死と付き合って、悲劇の材料にして、余生を過ごそうとしていたのに、むなしい逃避行だと気づいてから恐怖を受け止めていく流れもすごかった。
「どんな場所でも、この上なく醜くてばかばかしい場所でも、見るのはこれで最後なんだ、覚えとけよ」と、現実味のなかった死を受け止めてしまって、もうどこへ行っても自分がこの場所を見られるのは最後なんだと実感してしまった。そして、「死に負けてしまった」
死と向き合ってうまくやっているつもりでカッコつけてたけど、急に、もうすぐ死ぬっていう実感が襲ってきてルイの表情が恐怖に染まっていくのがすごかった。
そして、「時にはこんなこともする」と笑顔に切り替わって遺影の話を始める。
全部時間がつながってるのがウソみたいに、ころっと切り替わる。
「次々と手渡しをする」の仕草が、本当に何人か人がいて写真を回していく様子に見えて、すごいなぁと思った。
作り笑いをしたルイの遺影を見た人たちが「あの人ってまさにこんな感じだった」ということを想像して嫌悪して、「違うだろ、全然…ちょっと考えれば、お前たちにだってわかるはずだ。違うだろ、全然!」と憤り、「僕はただそう見せてるだけだ」と憎々し気に吐き捨てる。
ルイはずっと作り笑いを浮かべながら、誰にも理解されないという激しい感情を押し殺していた。ジャケットの裏地の暗い赤が、ルイが心に隠した色のように見える。
だから死後に「ルイって優しかったよね」みたいに言われるのを想像してうんざりする。誰かに理解されたいって願望がすごく強い。それはもしかしたら、性的マイノリティであることだけが理由ではないかもしれない。
すんごく内気な青年で、小さい時から本音を言えないまま「ルイはこうだよね」と決めつけられて育って、「そうじゃないのに」って気持ちが大きくなって、「理解されない、愛されてない」とこじれてしまったのかも。
このシーン、いつも迫力満点で大好きなのだけど、「ラガルスが来た」と感じた11/2は特にすごくて、迫力に圧倒されて、気づいたらこちらまで汗だくになっていた。舞台を観ていて初めての感覚だった。
12.ルイとアントワーヌ
母に言い出せなくて、ルイは兄には伝えようとした。でも、ルイが本題に入ることができずにぐだぐだしているうちに、アントワーヌはそれを拒んでしまう。いままで父親のいない家族の面倒を見てきて、「何も背負い込みたくない」という感情が爆発したのか。
よく考えたら、お母さんが思い出話をするとき「あのころは私も働いてたわ」というセリフがある。今は働いていないとすれば、アントワーヌは結婚して出て行った実家の生計まで支えている。(シュザンヌは自分でテレビやステレオを買ったと言っていたから、バイトくらいはしているのかも)
アントワーヌは工場で働いているけど、カトリーヌいわく「仕事」と呼べるものではないらしい。ブルーカラー(肉体労働者)で、きっとそんなに給料はよくないんじゃないかな。それと通ずるのかわからないけど、アントワーヌは青い服を着ている。それで自分の家族4人と実家の母と妹が暮らしていくのは、たいへんなのかもしれない。
そこに弟が深刻な話を打ち明けようとして爆発した。
「背負い込みたくない」というだけじゃなくて、アントワーヌはルイの手口についても気づいている。
あとのシーンで「ルイは流儀のように不幸を使う」と言うから、困ったときにすぐそれをアピールして母に助けを請い、自分を悪者に仕立て上げるルイの手口には気づいていると思う。
だから「体調が悪いのかなと最初は心配したけど、よく考えたらルイは不幸ぶって周りの愛情や同情を得ようとするやつだった、別に本当に不幸ってわけじゃないくせに俺に重荷を背負わせてくれるな」と全てを繋げて「でっちあげだ」と都合のいい答えを出してしまったのかなと思う。
ここのルイの静かな変化が好き。
兄の機嫌を取ろうとしているのか作り笑いでへらへらしている表情、話を聞いてくれない兄に対する焦り、もう聞いてもらえないという諦めの表情。
最後、アントワーヌが部屋を出て行く寸前は座ったまま客席に背を向けて力なくうなだれる。その顔を見てみたかった。
兄になら話せると覚悟を決めたのに拒絶されたルイが、このときは不幸のふりじゃなくて本当に絶望しているのを見て、心が痛かった。
一番、ルイをかわいそうだと思った瞬間。
13.ルイの夢の中
舞台上に置かれた靴と、鏡の中にいるルイがライトアップされる。
なんだかそれが、靴の場所にルイは立っているのに心が体とバラバラになってしまったような感覚だなと思った。
「どの部屋にもたどり着けない」というのは、家族の誰とも理解し合えないということだと思う。
翻訳本とはルイのセリフが変更になっている。
翻訳本では「一番ひどいのは、僕が恋をすること。一番ひどいのは、僕が少し待とうとすること。」
舞台では「一番ひどいのは、愛すること。一番ひどいのは、待ってみたくなること。」
翻訳本のセリフは自分のことを言っているように感じて、舞台のセリフは自分の家族に対する態度について言っているように感じる。
鏡の世界はルイの頭の中なので、ほかの人たちのセリフも全部ルイの考えた「この人がいいそうな言葉」ってことなんだと思う。
印象的なのはアントワーヌの言う「望ましい遠さ、ちょうどいい距離 離れてた」というセリフ。
ルイはやはりそんなに遠くには住んでいなかった。シュザンヌの言う通り「もっと頻繁に会いに来られたはず」なのだ。
それはルイが家族に思われていることであると同時に、ルイも思っていたことなんじゃないかな。
「会いに来られる距離から手紙を送っていたのに、誰も会いに来てくれなかったね」と。
だから、そんな無関心な家族を自分から愛するのはひどくむなしいことで、待ってみたくなる気持ちなんて持つんじゃなかった、ということなのかな。
「私が不幸かもしれないって?」と怒るシュザンヌに対して、アントワーヌは「あいつだよ、不幸な男は」「お前は自分が不幸だと思っている」「あいつが遠くにいたから」「でもそれが理由じゃない」「ただの辻褄合わせだ」という。
現実で、ルイはシュザンヌから「私、幸せになりたかったわ。それも兄さんと一緒に」と言われている。シュザンヌは兄がいないことが不幸で、帰ってきたことをとても喜んでいる。でも、ルイからすれば「住所知ってるんだし会いに来たければ来られただろ、僕のせいにするな」という気持ちがあって、それを夢の中でアントワーヌに代弁させているように感じた。
夢の世界でカトリーヌだけがルイと会話できるのは、カトリーヌだけがルイの手口に気付いて、ルイのことを理解できた人だからなのかな。
お母さんがルイの名前ばかり呼んでいるのに会えないのは、ルイがお母さんに自分ばかり構ってほしいけど理解はしてもらえていないという気持ちの表れなのかなと思った。
14.出ていく前のルイの心情
ルイは家族に「約束する。すぐにまた来る。時間をあけずに帰ってくるから」と言って回る。(「僕はうそをつく」がまた悪い顔していてイイ)
「電話するし、近況報告もする。みんなの話をちゃんと聞くようがんばってみる。心から愛を感じてるよ。」と大ウソを並べる。自分を理解してくれようとしなかった家族が、あとから絶望するように仕込んでいるみたい。
自分が出ていくと言い出したのに、アントワーヌが車で送っていくということが気に入らないらしく、「アントワーヌは僕を追い払いたいようだ」と曲解をかます。ゆがみすぎでは……
そして、せっかく死ぬことをを告げようとした覚悟を「でっちあげだ」とブチ壊された恨みもあって、「僕は口には出さず、アントワーヌの罪を告発する。僕の恨みを僕が晴らすんだ。」と言う。アントワーヌ不憫……
15.車で送っていく話と兄妹の喧嘩
ここでルイの仕返しが始まる。
ルイが帰ろうとするので、よかれと思ってアントワーヌは車で送ってやると提案する。
シュザンヌはまだルイに帰ってほしくないから、自分が送ると言う。
ルイは自分で帰ると言いだしたはずなのに、「もっといいのは、僕がここに泊まって…」などとシュザンヌが期待するような言葉をたくさん並べて喜ばせる。
シュザンヌは喜ぶけど、アントワーヌはルイが帰ろうとしている(と思っている)から、引き留めようとするシュザンヌを非難する。そうして2人がどんどんヒートアップして、シュザンヌはついにアントワーヌに摑みかかる。
7公演を観てきて最後に気づいた。
シュザンヌがアントワーヌに掴みかかった瞬間、2人の奥でルイが一瞬だけ笑った。
邪悪な笑みでもなく、愛想笑いでもなく、ただ一瞬、少し嬉しそうに、へらっと笑った。
私はルイがアントワーヌを悪者にしていると気づいてからずっと、2人の喧嘩を引き起こせたことでどこかでルイが笑うんじゃないかと思って見ていたんだけど、もっとあとのほうだと思っていたから、なかなか見つけられなかった。やっと見つけた。ハッと五感が鮮明になった気がした。焼きついた。
そのあとすぐに困ったような顔をして2人に割って入って喧嘩を止めようとしたり、「泣かないで」なんて近寄って白々しくアントワーヌを「落ち着かせよう」としたりする。
それで余計にアントワーヌは激昂し、シュザンヌは号泣する。
「お帰りいただけますでしょうか」と立ちはだかったカトリーヌは、ルイの算段に気づいたのかもしれない。
このあと、乱暴だと言われたアントワーヌが嘆く。
舞台では言ってなかったと思うけど、翻訳本にはアントワーヌが「疲れてたんだ」と言いながら「疲れているときは、仕事のせいだとか、いや悩み事だとか金のせいだとか思ったりする」というセリフがある。アントワーヌの仕事の話で触れたとおり、やはりブルーカラーの彼が自分の家族と実家を支えるのは金銭的に負担だったのだろうと推測できる。
必死で支えてきた人たちの中に突然ルイが帰ってきて、みんながそれを喜んで、ルイの作り笑顔に騙されて味方をする。ルイがいない間いっしょに生活してきたシュザンヌにもつらく当たられて、母親にはバカな乱暴もの扱いされて、最後の砦であったであろうカトリーヌにまで乱暴だと言われてしまう。
それで、ルイが「帰る」と言い出したのでよかれと思って車で送っていくことを提案したのに、それさえもルイの復讐の手段にされてしまって、アントワーヌが不憫で仕方がない。
ここはもう、ルイが犯人であるミステリーものを観ているような気分だった。
16.アントワーヌの気持ち
食卓に座って、アントワーヌとルイが対峙する。
ルイは恨みを晴らせて満足したのか、作り笑顔を浮かべながらアントワーヌの話を聞いている。
でも、アントワーヌが話し続けるにつれて、静かにどんどん表情が変化していくのがすごかった。
最初のほう、アントワーヌが「ルイが責められたときに言う言葉だ、愛されてないって」ということから、ルイはやはり昔から不幸ぶって同情を集めていたことがわかる。
でもアントワーヌからすれば、ルイは愛されていないことなんてないように見えた、という話の中で、ルイはいつもの作り笑顔をしたり表情を曇らせたりする。「全然わかってない」ということなんだろう。
ルイは愛されていないと思っていたけど、家族は目立たなくとも愛情表現をしていたことがアントワーヌから伝えられる。
家族の中でいちいち付き合いたてのカップルみたいに大げさに「愛してる!」なんて表現すること少ないと思うし、家族の愛はそれとない気遣いや思いやりで浸透しているものだと思うので、アントワーヌが言いたかったのはそういうことなのかなぁと思う。
でもルイはそれを感知できていなくて、「愛されていない」と思っていたのかな。
それでルイがいっつも不幸ぶるから、家族が「ルイのことを気にしてやらないと」と気を使っていた。
「どんな不幸も人に応対するための流儀でしかない」という言葉がここで出てくる。
最悪のタイミングだなと思った。
確かに昔からそうだったのだろうけど、今回は、ルイは本当に病気という不幸を抱えて告げに来て、拒絶されて、言い出せないまま家を出て行こうとしているのに、「お前の不幸は本当の不幸じゃない」と言われてしまう。
ルイは作り笑顔を張り付けるしかない。
だけど、ルイが不幸を武器にし続けた結果いろんなことがアントワーヌのせいにされて、ルイが出て行ったの責任も押し付けられて、アントワーヌはルイと連絡を取りながら気遣っているというパフォーマンスをしなければならなかった。18年もの間、家族を支えながら。
でも、喧嘩のシーンでアントワーヌは新聞を読んでる人を見てルイを思い出す、新聞を読もうとするというセリフがある。ちょっとルイに近づいてみたい、みたいな気持ちも感じられて、ルイのこと、本心でも気にしていたんだろうと思う。(でも知識がないので新聞は難しくて読むのをやめてしまう。弟へのコンプレックスも感じられる)
ルイがおそらく内心自分は本当に不幸なんだ、わかってないなと思っている一方で、不幸に見えなかったアントワーヌが自分のせいで不幸を背負わされていたことが語られて、でもそのあとアントワーヌは「こんなに腹が立つのにお前の身に悪いことが起こらないことを願っている」なんて言うから、ルイは意外な気持ちになったんじゃないかな。
このへんから、ルイの中にちょっとずつ「悪かった」「心配してくれてるんだ」って気持ちが生まれたんじゃないかな。
ちょっとずつちょっとずつ、ルイの表情が変わっていくんだけど、うまく言葉にできない。
ルイの愛想笑いがじわじわ溶けて、だんだんやわらかくなってくるような。
笑っていながらもその心がアントワーヌの方向を向いていなかったのに、少しずつ少しずつアントワーヌの方を見るようになったような感じ。
ん~~~~…新幹線のめっちゃくちゃ固いアイスがちょっとずつ食べれるようになるくらいのじわじわ感。(もうちょっといい例えないんか)
だから、この変化がどこで起こったかってうまく言えないんだけど、でも最後にはルイは本当にアントワーヌの気持ちを感知することができたんだと思う。
最後には、ちょっと泣きそうな表情にも見えた。作り笑顔でも、嫌な表情でもなかった。
このあと、翻訳本にないセリフが追加されていた。ニュアンスだけど…
アントワーヌが「車を出してくる」と言う。
さっきはこの提案が非難されて爆発したけど、結局やっぱり弟が帰るときに役に立ちたいというか、困るだろうから送ってやらなきゃ、っていう兄ちゃんらしい行動に至ったのかなと思う。
お母さんの「シュザンヌに言ってたのよ。ルイが忙しくて来れないなら、会いに行けばいいんだって」「いつでも帰ってきていいんだ、家族だから時には遠慮のないことも起こるけど」とか、カトリーヌの「さっきはすみませんでした。帰っていただけないかなんて。ここはあなたの家でもあるのに。どうかまたいらしてください」「知らないのは怖いことです」などのセリフも追加されていた。
温かい空気だった。
17.エピローグ(山奥の話とルイの後悔)
あんなに温かい空気で締めくくったのに、ルイは結局もう実家には戻らないことに決めた。
さっきのシーンで、アントワーヌから心配していると教えてもらって、ようやく「家族から愛されているかもしれない」と少しは思えたように見えた。
でも、ルイはそれを認めきれなかったんじゃないかな。
陸橋の話は、ルイの心の中の例え話に聞こえた。
誰もいない山奥の陸橋は、孤独なルイの心の中。
空と大地の真ん中を一人で歩くルイは、誰にも理解してもらえず心の殻に閉じこもったルイと重なる。
そして、そんな場所で「歓喜の声をあげるべきだった」っていうのは、心の中でくらい自分が愛されていると認めてもよかった、ということなんじゃないか。
誰もいない山奥で人目など気にせず、好きに叫んでもよかった。
誰にも覗かれない心の中でくらい、家族から愛されていると認めてもよかった。
そういうことがリンクしているんじゃないかなって思った。
でも結局認めなくて、「愛されていない」と頑なに思ったまま孤独に死んでいくことになる。
会いに来ていいよって言われたけど、せっかく愛情を伝えてもらったのにもうすぐ死ぬことを思うと、素直に行くこともできない。
家族からの愛情を受け取ったのに、受け取るのが不慣れすぎて、うまく掴みきれなくて取りこぼしてしまう。
それがルイの言う「後悔」なのかなと思った。
最後に
正直、最初は難しそうだし、楽しめるのかな…って構えていた。
でも実際は今まで知らなかった内くんの表情がたくさん見られて、新しい宝箱を開けられたような作品だった。
セリフがないときも誰かが何か伏線になるようなことをしていたりして、見逃すまいと監視するような気持ちで観ていたので、共感することはあまりなかったのだけど、とにかく仕込んできた設定を暴いてやる!ってミステリーを観るような気持ちで、気づけたときの快感がすごかった。
解釈違いの部分もあると思うけど、そこを補完するように友人とあーだこーだ話したり、ツイッターの感想をあさるのも楽しかった。
10月の初めに観てから一か月、毎日この舞台のことを考えていた。
出演者の方それぞれの感想を書きたい。
内博貴くん
16年くらい内くんのファンをやっていて、内くんのこんなに緻密で激しいお芝居を見たのは初めてじゃないかと思います。近くで観られたって要因もあるのかな…いつも同じくらいしていたら本当に申し訳ないです…
でも、「内くんってこんなにすごかったんだ!?」って驚きました。(いままでもすごいと思っていたし大好きだけど、それ以上にってこと!)
新しい扉だった。
私はこの先の内担人生で、この舞台の衝撃をずっと忘れないと思う。
「ずっと」なんて確証のないことを言うのは好きじゃないけど、でも、ずっと忘れないと思う。
内くんのブログでも、ルイのことたくさん教えてくれたらいいなぁ~と思っています。
鍛治直人さん
鍛治さんがツイッターでエゴサをしてどんどん反応をくださるので、感想をツイートしたり見て回ったりするのがとても楽しかったです。
最初に見たときは、アントワーヌを意地悪な人だと思ってしまったのが本当に申し訳ない!全部ルイの策略だったのに!アントワーヌ不憫!
気づいてからは、ルイが手口を使うたびに「アントワーヌに意地悪しいなや!」と思いながら観ていました。笑
全部の感想を繋げて書いて、改めて、アントワーヌは優しい兄ちゃんだったんだなと実感しました。
大空ゆうひさん
義理の家族に気遣って、でもルイに騙されないで夫に愛情を注ぐカトリーヌ、本当に素敵でした。
カトリーヌの心労を思うと本当にいたたまれないけど、ルイにすべきことをきちんと言って、お母さんの話をニコニコ聞いてあげて、泣きじゃくるシュザンヌを抱きとめて、激昂したアントワーヌも抱きとめて、意地悪するルイに立ちむかって、でもあとでちゃんとごめんなさいもして、とても素敵な女性でした。
那須佐代子さん
元気ではつらつとしたお母さん、とても好きでした。見当違いなことも言っちゃうけど、家族みんなを愛しているんだなぁと思いました。ルイの手を握るところがすごく好きだった。
お母さんは思い出話や息子・娘のことばかり話していて、自分のことはあまり話さなかったので、お母さんの気持ちも気になるなあと思っています。
島ゆいかさん
感情の起伏が激しいシュザンヌ、パワフルで子犬のようでストレートで、好きでした。ルイはきっとシュザンヌに歓迎してもらったこと、うれしかったと思う。
久しぶりに帰った家で、大人はみんな気を使ったり様子を窺ったりしている中、シュザンヌだけは「うれしい!」の気持ちがストレートで、ルイは救われたんじゃないでしょうか。
動きが海外ドラマの女の子っぽいのも、かわいかったです。
石丸さち子さん
素晴らしい舞台をありがとうございましたという、感謝の気持ちでいっぱいです。
内くんの新しい一面を観られたこと、舞台の新しい楽しみ方を知れたこと、とても嬉しいです。
ぜひまたいつか、石丸さんの演出で新しい内くんの姿を観てみたいです。
話はこれで終わり!
言いたいのは、なにもかも素晴らしかったし、この舞台が大好きだってこと。