これは厄介だっていう説もあるけど

すきなものについて雑多に語るブログです

奨学金の残額250万円を繰り上げ返済した


「ここに100万あるから。」

 

三十路の誕生日を迎える一週間前、3月のある日のこと。

「用事があるから今度家に行く」と母からLINEのメッセージが届いた。

実家と同じ市内で一人暮らしをしているので、実家に帰ったり両親が家に来たりというのはよくあることだけど、そういうときはご飯を食べに行くとか停電でお風呂に入れないとかいった理由が必ず添えられていた。

「用事がある」とボカされたことに違和感を覚え、もしかして両親のどちらかが病気?それともお金を貸してほしいとか…?など不安に苛まれながら約束の日を迎えた。

インターホンが鳴りドアを開けると、母は明るい顔で「来たよ~」とパックのお寿司を手土産に入ってきた。

最近ハマっているポーセラーツがどうの、転職で引っ越した妹がどうの、などと他愛のない話をしてお寿司をつまんでいる最中も、本題はなんなのかと気になって仕方がない。少し上の空で母の話を聞いていた。

 

食べ終わって一息ついたころ、「そうそう」と母が「カレー余ったから持ってきてん」ぐらいの軽さで通帳と印鑑を差し出し、1行目の言葉を口にした。

 

知らない間に、母は私名義の貯金をしてくれていたのだった。

 

奨学金、まだ残ってるやろ。これで繰り上げ返済しぃ。ちょっとでも早く返せたほうがいいやろ。」

 

私は大学生のときに日本学生支援機構の第二種奨学金(有利子)を借りていた。

借用金額は元金3,840,000円。

利子がついて4,435,536円。

就職してから毎月18,481円ずつ返済していたけれどちっとも減らず、この出来事があった3月時点で残元金は2,540,506円だった。

 

これは4月時点のもの。

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自分が入りたくて頑張って入った憧れの大学で学生時代を過ごせたので、さらにもっとこんな過ごし方をすればよかったと思うことはあるものの、奨学金が利用者に無理な負担を強いているなどと悪く言うつもりは、私にはない。

それにしても、月給が入るのとほぼ同時に引き落とされる18,481円の存在や、定期的に届くハガキに印刷された残元金や利息、2031年までズラッと返還期日や割賦金の予定が並んだ表を見ると、これを返済するまでは口座にある残高も自分の金ではないに等しいな、と重い気分になった。

 

そんな状況から解放されるチャンスがいきなり舞い込んできた。

私は「え!!いいの!?ありがとうございます!!」と遠慮するそぶりすら見せる余裕もないまま大喜びで受け取り、母が来る前にわずかでもお金を借りに来るのではなどと思った非礼を心の中で詫びた。(もしその時が来たら恩返ししますね……)

そして「ほなまたご飯食べにおいでね」と帰っていった母を見送り、部屋に戻った途端、突如としてある疑惑が浮かんだ。

 

これ、もしかして結婚資金に貯めてくれてたのでは?

 

結婚のケの字どころか彼氏のカの字も出てこない私を見かねて、もう結婚資金としてあげる予定なさそうだから奨学金これで返しや、ってことでくれたのでは?

 

けれども、ありがたいお金に変わりはないので、ありがたく使わせていただくことにしよう。

 

 

ただ、踏ん切りがつかない。

せっかく手続きをするならまとめて残金すべてを返済したいが、そうすると毎月3万円ずつコツコツ貯めていた自分の貯金からも約150万円を一気に出さなければならない。

一文無しになるわけではないにしても、遠征多ステおたくで海外旅行が趣味な私にとって、たとえ出費がかさんで給与口座の残高がピンチになったとしても定期預金に貯金があることはかなり安心できるものだった。

”軽率に金を使うおたく VS 窓口での手続きが必要な定期預金”の関係性では、定期預金のほうが強かったおかげでなんとか貯金ができていたのだ。

それが一気に減ってしまう。

この先、何かで貯金が必要になったときに耐えきれるのだろうかという不安がぬぐえない。

突然病気を患ったり大けがするかもしれないし、推しが海外公演をするとなれば絶対に行きたいし、結婚するかもしれないし……

 

150万円を足して全額繰り上げ返済でスッキリしてしまうか、もらった100万円分だけ繰り上げ返済するか、どうしようかなぁと、決められないまま2ヶ月が過ぎた。

 

そして先日、寝る前にはてなブログを開くと、”「迷い」と「決断」”をテーマにしたキャンペーンが始まるとお知らせが出ていた。

参加したくて、私何か迷って決断したことあったかなぁとネタを頭の中で検索したけれど、一向にひっかからない。

海外一人旅、転職、ハンドメイド作品の販売など、いろいろ「これをしよう!」と決断してきたことは多いけれど、猪突猛進タイプで決めたことはすぐに手を出す性格なので、迷って下した決断が特に思い当らないのだ。

今年も参加できないかなぁと思ってブラウザを閉じた瞬間、「そういえば奨学金を全額繰り上げ返済するか一部繰り上げ返済するかで迷っている」ということに気が付いた。

でも、まだ決断はしていないから書けない。

 

じゃあ、もう決断しちゃえばいいんじゃない?

決断というからには、キレイさっぱり全額返済するぐらいの大胆さが必要だと思った。

それくらいの大胆さがなければ、ネタにしづらいってもんよ。

 

私はすぐに母の通帳と自分の通帳を取り出した。

母の通帳を開いてよく見てみると、貯金は私が転職した年から始まっていることがわかり、金額もスパンもまちまちだった。

数か月連続で10,000円を入金しているときもあれば、数か月開いて10万円を入金しているときもある。

パートの給料が低いとよくボヤいていた母が、可能な時に可能な金額をコツコツ預けてくれていたのだと気づき、目頭が熱くなった。

私の実家は裕福ではないほうだと思う。

私が幼いころ、2000円のセーラームーンの人形をねだったとき、両親はすごくすごく迷ってそれを買ってくれたと聞いたことがある。

幼いころの私の机とペン立ては、牛乳パックに包装紙を貼って手作りしたものだった。

中学生のころのお小遣いは月1000円。高校生になってすぐバイトを始めると遊びにかかるお金はすべて自分で払っていたし、大学生のときは定期代も教科書代も自動車教習も自分のバイト代から払っていた。(普通だと思っていたけど、友人に聞くと出してもらっている子が多かった)

築数十年の市営住宅のリビングのテーブルで、ノートとレシートとにらめっこしながら家計簿をつけていた母の姿を思い出した。

そうして100万円も貯めてくれたのか。

母の愛に触れた嬉しさと、二ヶ月続いたモヤモヤにやっと終止符が打てるのだという興奮とで、なかなか寝付けなかった。

 

翌朝、開店一番で銀行の窓口へ行き、母の100万円を引き出した。

帯がついた札束に初めて触った。

コナンで見たことあるやつだ、と感激した。

バッグに仕舞って、自分の口座がある銀行へ向かう。

道中はずっとひったくりに遭わないかと気が気ではなかった。

無事に銀行で定期預金の解約もして、奨学金の引き落とし口座に母のお金と自分のお金を入れた。

 

もうためらいはない。

咲き誇るツツジを横目に初夏の陽気を突っ切って帰宅し、真っ先に日本学生支援機構のサイトを開いた。

推しの舞台に向けて遠征の飛行機を予約するのと同じくらい迷いのないスピードで、必要事項を入力して250万円全額返済の了承ボタンをクリックした。

起きてからここまで2時間。

今朝、5月17日の朝の出来事である。

本来であれば今後10年以上も私の心に居座り続けたであろう「奨学金=借金を抱えている」という懸念事項を真っ白にした、決断の話だ。